労働条件通知書は「書いてあること」より「合っているか」

── 契約更新のタイミングで確認すべき実務の本質

労働条件通知書は、出していれば足りる書類ではありません。
契約更新の実務を見ていると、むしろ「きちんと出している会社ほど」見落としやすいリスクがあります。

多くの現場では、契約更新が業務として定着しています。
年度、半期、クオーターなど、会社の管理単位に合わせて更新を行い、
前年の様式をベースに条件を確認し、通知書を交付する。
この流れ自体は、決して間違いではありません。

問題になるのは、その作業が流れ作業になった結果、何が起きているかです。


労働条件通知書は「手続書類」ではなく「合意内容」

労働条件通知書は、単なる事務書類ではありません。

  • 労使間で、どのような条件で働くことに合意しているのか
  • その合意が、いつ・どの内容で成立しているのか

を示す、個別具体の合意内容です。

就業規則が「共通ルール」だとすれば、
労働条件通知書は「その人に適用される前提条件」を示す書類です。

そのため、

  • 書面の内容
  • 実際の働き方
  • 会社の説明

この3つが噛み合っていないと、
通知書そのものの信用が落ちてしまいます。


リスク①|記載内容と実態が合っていない

まず一つ目は、以前からある典型的なリスクです。
労働条件通知書に書いてある内容と、実際の働き方が合っていない

例えば、次のようなケースです。

  • 通知書上は「所定労働時間7時間」
  • 実際のシフトは常態的に8時間
  • 残業は「想定なし」と記載しているが、実態として毎日発生している

現場感覚では、
「本人も分かって働いている」
「慣習としてそうなっている」
という認識になりがちです。

しかし、労使間で合意した内容としてまず見られるのは、
労働条件通知書の記載内容です。

このズレは、次のような場面で問題になります。

  • 労基署の臨検で、通知書の内容を前提に質問される
  • 未払い残業代請求で「この条件で合意していたはず」と会社側の説明が弱くなる
  • 雇止め・更新拒否の場面で「当初条件と違う」と主張される

実態がどうであれ、
書面と合っていない時点で説明が苦しくなるのが現実です。


リスク②|法改正への対応が間に合っていない

二つ目は、近年特に増えているリスクです。

**2024年4月施行の法改正(労働条件明示ルールの見直し)**により、
労働条件通知書に明示すべき内容は増えています。

特に有期契約労働者については、

  • 契約更新の上限の有無
  • 更新判断の基準
  • 就業場所・業務内容の変更範囲
  • 無期転換に関する事項

など、「前年踏襲」では対応できない項目が明確に求められるようになりました。

それにもかかわらず、

  • 旧様式のまま更新している
  • 法改正前の表現を使い続けている

という場合、
実態とのズレ以前に、現在の法令に適合していない労働条件通知書
になっている可能性があります。

これは、運用の工夫でカバーできる問題ではありません。


リスク③|法改正には対応したが、その後の運用が反映されていない

実務上、もっとも多く、かつ気づきにくいのがこのパターンです。

  • 法改正をきっかけに、一度は通知書の内容を整理した
  • 専門家のチェックも受けた
  • しかし、その後の運用変更を反映していない

例えば、

  • 更新判断基準を明文化したが、実際の判断は別の基準で行われている
  • 業務内容の変更範囲を書いたが、想定外の業務を恒常的に任せている
  • 配置転換の範囲を整理したが、組織変更後の実態と合っていない

会社側の感覚としては、
「法改正対応は終わっている」
「一度きちんと整理した」
という認識になりがちです。

しかし外から見れば、
分かっていて直していない状態
と評価されることもあります。

この場合、行政対応や紛争の場面で、

  • 「この更新基準で合意しているのですよね?」
  • 「この変更範囲と、実際の配置は整合していますか?」

と、通知書の記載内容そのものが問い直されることになります。


実務で確認すべきなのは「項目」ではなく「説明できるか」

労働条件通知書を見直す際、
チェックリストを埋めること自体が目的ではありません。

重要なのは、次の点を説明できるかどうかです。

  • 今回の更新で、何が変わり、何が変わっていないのか
  • 現場の運用と通知書の内容に矛盾はないか
  • 第三者に、紙1枚で説明して違和感がないか

「Excelでも説明できる」
「紙でも説明できる」

というのは、ツールの話ではなく、
合意内容と実態が整理されているかの目安に過ぎません。


契約更新は「ズレを修正する機会」

労働条件通知書は、

  • 一度作って終わり
  • 法改正対応をしたら終わり

の書類ではありません。

契約更新のタイミングは、
実態と合意、法令とのズレを修正できる数少ない機会です。

流れ作業になりがちな更新業務だからこそ、
「書いてあること」ではなく、
**「今も合っているか」**を一度立ち止まって確認する。

それが、後からの是正やトラブルを防ぐ、
もっとも現実的な実務対応だと考えています。

労働条件通知書の運用・判断に不安がある場合はご相談ください

労働条件通知書は、
書式や記載項目をそろえることよりも、
実際の働き方や法令と整合しているかが重要です。

  • 更新作業が流れ作業になっている気がする
  • 法改正への対応はしたが、実態まで確認できていない
  • 現場の運用と、書面の内容にズレがないか整理したい

こうした 実務判断・運用設計に関するご相談については、
無料相談の中で状況を整理し、考え方や方向性をお伝えしています。

まずは現状確認からでも構いません。
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佐怒賀 奨吾

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