2025–2026年「年収の壁」をどう整理するか

── 5つの壁を制度横断で誤解なく理解する

「年収の壁」という言葉は広く知られるようになりましたが、
実務の現場では 数字だけが独り歩きし、制度の違いが整理されないまま判断されている ケースが少なくありません。

103万円、106万円、130万円、160万円、178万円。
これらはすべて同じ「壁」のように語られがちですが、
実際には 税・社会保険・扶養という異なる制度にまたがる別物 です。

本記事では、2025〜2026年にかけて特に誤解が生じやすい
**5つの「年収の壁」**について、
企業実務の観点から同じ軸で整理します。


「年収の壁」は金額の話ではなく、制度の話

年収の壁とは、
「ある金額を超えると、税や社会保険などの取扱いが変わる境界」
を指します。

重要なのは、
どの制度の壁なのか を区別せずに金額だけで判断すると、
企業側の説明も、従業員側の理解もズレてしまうという点です。

以下では、

  • どの制度の壁か
  • 超えると何が変わるか
  • 企業実務への影響
  • よくある誤解

という同じ視点で、順に整理します。


103万円の壁

― 従来の「税の壁」はどう位置づけるべきか

制度:所得税
何が変わるか:本人に所得税が課税される
企業実務への影響:限定的

103万円の壁は、長く「働き控え」の象徴として語られてきました。
しかし、企業実務の視点で見ると、影響は比較的小さい壁です。

よくある誤解は、
「103万円を超えると一気に損をする」というものですが、
実際には段階的に課税されるため、
この壁だけを過度に意識する必要はありません。


106万円の壁

― 実務への影響が最も大きい「社会保険の壁」

制度:社会保険(短時間労働者の被保険者要件)
何が変わるか:厚生年金・健康保険への加入
企業実務への影響:非常に大きい

106万円の壁は、
企業実務に最も直接的な影響を与える壁です。

社会保険への加入により、

  • 本人の手取り
  • 企業の保険料負担
  • 労働時間設計
  • 従業員への説明責任

などが大きく変わります。

「税の壁と同じ延長で考えてしまう」ことが、
最も多い誤解と言えるでしょう。


130万円の壁

― 企業が判断してはいけない「被扶養者の壁」

制度:健康保険(被扶養者認定)
何が変わるか:扶養から外れる
企業実務への影響:間接的(説明ミスがトラブルに)

130万円の壁は、
企業が直接コントロールできない壁です。

被扶養者に該当するかどうかは、
加入している健康保険組合等が判断します。

企業ができるのは、
正確な制度説明を行うことまでであり、
「このくらいなら大丈夫」といった判断を代行してしまうと、
トラブルの原因になります。


160万円の壁(2025年施行)

― 新しい「税の壁」は何を変え、何を変えないか

制度:所得税
何が変わるか:非課税枠の拡大
企業実務への影響:税のみ

2025年から、
所得税の非課税枠が160万円まで拡大される予定です。

注意すべき点は、
この変更は 税の制度だけ に関するものであり、
社会保険や扶養の要件とは連動しないということです。

「壁が上がった=自由に働ける」という理解は、
実務上は正確ではありません。


178万円の壁

― 政治的に妥結したが、実務判断はまだ早い

制度:所得税(予定)
状況:自民党と国民民主党で政治的に合意

年収178万円への引き上げについては、
政党間で方向性が示されています。

ただし、
現時点では法改正や施行時期が確定しているわけではありません。

※本合意は所得税に関するものであり、
社会保険(106万円・130万円)の要件が
自動的に変更されるものではありません。

企業としては、
「前提を変える」段階ではなく、
制度改正を見据えて説明準備を進める段階と整理するのが適切です。


5つの壁を横断して見たときに起きやすい誤解

  • 税の壁が上がればすべて解決する
  • 壁は1つずつ順番に影響する
  • パート・アルバイトだけの話

実際には、
複数の壁が同時に影響するため、
金額だけで判断すると必ずズレが生じます。


企業実務で本当に重要なのは「金額」ではない

企業に求められるのは、
「いくらまで働けるか」を決めることではありません。

重要なのは、

  • 労働時間の設計
  • 社会保険の説明責任
  • 従業員本人の選択を尊重する姿勢
  • 企業が判断してよい領域と、判断してはいけない領域の切り分け

を整理しておくことです。


まとめ|「年収の壁」を理由に迷わないために

年収の壁は、今後も変わり続けます。
数字だけを追いかけていると、
実務判断を誤るリスクは高まります。

企業がやるべきことは、
制度を正確に理解し、誤解なく説明できる状態をつくることです。


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佐怒賀 奨吾

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